私のエッセー集

 

・インターネットって丸いもの

・インターネットは嫌い

・壊れた雨樋の下


・手首のこぶ
・ご苦労さん旅行
・最後の一日
・職業欄は無職



・竹トンボ

手首のこぶ

しのは、昨日のゴルフの疲れでぐっすりと眠りました。

朝、目が覚めて、両手を挙げて思いきり大きな欠伸をし、手を降ろそうとしたとき、右の手首の異変に気づきました。
手首に小さなこぶが出来ていいるではないか。”何これ?”しのは、首を傾げながら生まれたてのこぶを、恐る恐れる触れてみました。痛いとか痒いとかの感覚は全くないのに、やけに硬くコリコリしていて可愛い。

しのは、”せっかく出来たのだから、しばらくは大事にしておこう”と、奇妙な診断をし、時あるごとにこぶに触れる日々を過ごしておりました。

「しの、しの」と誰か呼んでいます。
ここにいるよ
しの、こぶはどうした
そのまま
しの、そのうちのだんだん大きくなって卵位になるよ
どうして?
仕事が面白くないんだろう!」 

しのは、はっと思って目が覚めました.。"そうだ!”これは、不平不満の多い最近のしのに対する警告の塊りかもしれない。

しのは、手首の欲求不満に愛着を込めて語りかけました。
大きくならない内に結論を出すから、それまで頑張ってね
うん、僕はがんばるけど、人生は、捨てる神も、拾う神もいるよ。
安心しな。
そうだね、欲求不満君、これからもしのを見守ってね
まかしとけ

しのは、再び心地良い寝息をたてはじめました。

    ある日突然、
  欲求不満の塊が
  手首に目をだす。
  でも、生まれて離れない
  可愛い分身
  撫でたり
  つねったりして
  今日も出勤電車に揺られる

夢の中での欲求不満君との語らいから1ヶ月たちました。その間、しのの愛すべきコブは、チョコンと手首に据わり、しのに「僕、結論を待っているよ」と言っているようでした。

しのは、今日とうとう結論を出しました。

「定年を待たずに会社を辞めたいと思っています。」
こう一言を上司に伝えたとき、急に目頭が熱くなりました。
いけないいけない、こんなはずでは無かった。しのは、平静を装い会話を続けました。
「定年までがっばたらどうだ」
「もう、社内失業には、疲れました」
「社内失業のはずはない。仕事は、十分しているではないか」
「そうですね。でも、とにかく疲れました。」しのは、次にくる言葉をぐっと飲み込み、「まもなく21世紀ですよ。」と、言って
コブを見つめていました。
良かったね。これで僕も大きくならないで済むよ」と、しのを見上げていました。
「ありがとう欲求不満君、これ以上待たせたら君も大きくなって爆発しちゃうかもね。」しのは、そっとコブに触り、席を立ちました。

その夜、しのは、おいしいビールを飲み、最近に無い眠りに入りました。

                         終わり(トップ